Topics(2000年1月−2月)

ワイン産地イギリス(2/27/00)

地球の温暖化はワインの生育にも影響を与えています。2月23日付けのイギリスのガーディアン紙に面白い話が載っていました。

地球規模の温暖化によって、イギリスの南部は今後50年の間に、フランスと肩を並べるワイン産地になる可能性があるそうです。これはオックスフォード大学の環境変化を調べているチームが発表したものなので、多分に手前味噌な部分があると思われますが、なかなか面白い話です。

今後50年のうちに、平均気温は摂氏2度ほど上がり、空気中の二酸化炭素量が増加することにより、ブドウの収穫量が増加し、糖度も増してワイン生産に有利になるだろうと予想されています。現在、イギリス南部ではわずかに白ワインが生産されるだけですが、そうなればカベルネやメルローといった赤ワインを生産することも不可能ではなくなります。イギリス、ベルギー、デンマークといった地域がこの恩恵をうけ、現在のフランス南部はモロッコの砂漠と化してワインには適さない場所になっていく…。ワイン好きのイギリス人が喜びそうな話です。

地球温暖化は加速傾向にあり、それによって温暖な地域も北にシフトしているのは確かなようです。でも気温が高くなっただけではワイン用のブドウがうまく生育するとは限らないはずですが。

フォスターの日本市場進出(2/27/00)

カナダビールのトップブランドであるフォスターが2月23日、日本のワインクラブであるWine Buzzの株を50%以上持つと発表しました。Wine Buzzというのはオーストラリアワインの輸入業者として老舗のヴィレッジ・セラーのワイン・クラブです。投資総額は日本円に換算して約4億円、貸し付けとして約2億円の資金注入を行ない、日本でのオーストラリアワイン、ニュージーランドワインなどのマーケティング(特にインターネット通販などのDM)に力を入れていくようです。

他の追随を許さないような低価格でワインを提供するというフォスター幹部のコメントがありましたが、さてどうなることでしょうか。


ワインスペクテーターの選んだ1999年トップ・ファイブ(updated 2/20/00)

ワイン・スペクテーターは、毎年年末にトップ100ワインを選びます。その中から、単にテースティングのスコアだけでなく、値段や生産量を勘案して、最も消費者にとってバリューが高いというものを選び、上位5つのワインを決めます。多分に選者の主観が入っているわけですが、99年の結果は以下の通りでした。

1 Chateau St. Jean Cabernet Sauvignon Sonoma County Cinq Cepages 1996 (95point, $28, 11300cases)

2 Opus One Napa Valley 1996 (96point, $125, 30000cases)

3 Isole e Olena Toscana Cepparello 1997 (95point, $45, 3900cases)

4 Kistler Chardonnay Sonoma Valley Durell Vineyard 1996 (96point, $55, 2847cases)

5 Peter Michael Les Pavots Knights Valley 1996 (96point, $55, 3900cases)

アメリカではスペクテーターの影響力は大きく、当初28ドルで99年12月に出荷予定だったサンク・セパージュは出荷が遅れ、今は3月にリリース予定だそうです。値段も38ドルに上がっています。値段を考慮して1位になったのに・・・と文句をいう読者もいるようです。当然でしょう。日本では、95年ものが6000円で売られていました。まだまだ日本はワインは高いですね。4位になったキスラーのDurellも、日本では直輸入価格で117ドル(送料込み)としてインターネットで売られているのを見ました。送料込みでもちょっと高いですね。


モンダヴィのイタリア進出 (updated 2/20/00)

2月15日に、モンダヴィはイタリアでの投資を拡大するという発表しました。ひとつはアンティノリの持っているオルネライアに投資すること。マイケル・モンダヴィがオルネライアの役員になります。 もうひとつは、フレスコバルディと合弁でLa Capitanaというトスカナ州南部のワイナリーを購入し、ルーセントというブランドのワインのためのブドウを確保するというものです。投資総額は両者を併せて136万ドルです。


またしてもペトリュスで騒ぎ? (updated 2/13/00)

今回のペトリュスの騒ぎは、長年社長を務めてきたマダム・ラコステが解任されたという話です。

理由は明らかにされていないといってもいいでしょう。税金の支払いを拒絶したとか、取り巻きがうるさいとか、93歳という高齢を考慮したとしか報道されていません。一説には、ペトリュスは各ヴィンテージの品質をきちんと示すために、シャトー卸価格はコントロールすることで知られているが、最近の価格の高騰にも関わらず、マダムの懐には金が入ってこなかった、その為に(ムエックス家とマダムとの)関係は悪化していたとも伝えています。両者は、他にも共有しているものがありますが、そちらへの影響はわからないとのことです。新たにジャン・フランソワ・ムエックスが社長になりますが、これまでワイナリー経営のほとんどは、兄弟であるクリスチャン・ムエックスが行なっていたので、会社の方針が変更になるということはないとのことです。

上記はワイン・トゥデイ2/10より紹介しました。また後日談を紹介します。多分あるでしょう。根が深そうです。

ボワセの海外進出 (updated 2/13/00)

ニュイ・サン・ジョルジョに本拠地を持ち、フランス第5位のワイン会社であるボワセ・グループが海外初のジョイント・ベンチャーとしてカナダのVincor International (イニスキリンを生産している)というカナダ最大の酒販業者と手を組むそうです。

プロジェクトの規模は200万ドル。ナイアガラ半島にピノ・ノワールとシャルドネの畑を湖の近くの35エーカーの急斜面の畑につくる予定です。ワインは、Le Clos Jordanという名前で、最初のヴィンテージは2005年以降、リリースされます。

ボワセのスポークスマンは、「この土地はピノ・ノワールにとって考えられないほど理想の土地だ。カナダではどんなものが出来るかのショーケースになるはず」と話しています。

ボワセ・グループがブルゴーニュで所有しているドメーヌは、ブシャール・ペール・エ・フィス、ジャフラン、モメサン、トラン、ロピトー・フレール等です。

上記はワイン・トゥデイ2/11より紹介しました。


DRCの97年ヴィンテージ (updated 2/13/00)

97年のDRCのワインがリリースされます。これに先立って、アメリカのインポーターであるウィルソン・ダニエルズが試飲会を行ないました。たまたまアメリカの西海岸に来ていたオーベール・ド・ヴィレーヌ氏がその席に同席し、97年のDRCの収穫についてコメントをしています。

「97年は、天候がかなり変化したヴィンテージだった。開花時期がいつもよりも早かったのに続いて、春先は多雨、夏は猛暑となり最初は早熟したのに息切れし、8月終わりに再び雨が降るとブドウの木は再び息を吹き返した。そして9月10日頃にようやく暖かくなり、収穫は、9月16日から23日まで行なわれた。

赤ワインはすべて素晴らしい出来で、ロマネ・サン・ヴィヴァンははつらつとして、微かな土の香りとスパイスの香りがある。ラ・ターシュは、輝いていて、絹のようになめらかで、強烈で、花の香りが感じられ、深みがある。ロマネ・コンティはスパイシーで新鮮なラズベリーの香りがあり、フレーバーにはスパイスとカシスが印象的だ。

収穫が最後であったモンラッシェは、蜂蜜とドライ・フルーツのふくよかなワインで、それでいながら溢れんばかりの新鮮さと生き生きとした酸味を持っており、余韻が極めて長い」

収穫量が少なかったため、値段も高くなっているようです。アメリカでの希望小売価格は以下のとおりです。さて、日本ではどの程度になっているのでしょう?

エシェゾー: 110ドル
グラン・エシェゾー:190ドル
ロマネ・サン・ヴィヴァン:250ドル
リシュブール:350ドル
ロマネ・コンティ:1020ドル
モンラッシェ: 750ドル

 

アメリカでシラーはどうしているのか (updated 2/13/00)

カリフォルニアの中でシラーにもっとも力を入れている産地といえば、パソ・ロブレ、サン・ルイ・オビスポ地区ということになるでしょう。それは、かのシャトー・ボーカステル(南仏)が合弁を作り、ペンフォールズ(オーストラリア)も同じく活動を行なっているということでもわかります。前者のワインは、今のところはヌフ・ド・パプのようなブレンドの「タブラス・クリーク」で、後者は「セヴン・ピークス」というブランド名のワインを売り出しています。まだ日本には輸入されてないようですが、両方ともあまりパソ・ロブレらしくないワインです(パソ・ロブレらしいワインの代表はジャスティンで、果実味がたっぷりで、クエン酸のようなフレーバーがある)。極めて正統的なワインだと感じました。ただこれはパソ・ロブレで飲んだ時の感想なので、今飲むと違う感じがするかもしれません。

アメリカでは赤ワインといえば、カベルネ・ソーヴィニョン、そしてメルロー、次にジンファンデルが一般的ですが、「ローヌ・レンジャー」といわれる南仏で使用されている品種を使ったワインが、ここ近年注目を浴び続けているのも事実です。

最近ニューヨークタイムズに掲載されたフランク・プライアルの記事によると、シラーがカリフォルニアにやってきたのは1950年頃の話だそうです。北はワシントン州から南はサンタ・バーバラ、そして東海岸のバージニア州まで幅広い地域で生産され、いまやどのワイナリーもといえば言い過ぎかもしれませんが、シラーを製品ラインに入れていているワイナリーが多くあります。全米での栽培面積は8000エーカーですが、81年には80エーカーだったそうです。20年間で100倍に拡大といえばすごい勢いといえるでしょう。

記事には、シラーワインの生産者名が紹介されています。

ジョセフ・フェルプス: 1974年からシラーを生産しています。これは日本でもよく見かけますが、ムールヴェードルとかヴィオニエとかグルナッシュのワインも生産しているようです。

ボニー・ドゥーン: サンタクルズで栽培していたらしいですがピアース病(最近ではフィロキセラに次いで恐れられている)にやられてしまったために造っていないとのことです。ここのワイナリーのオーナーは、南仏とスペインで自分の畑を持っていて、ワインを生産しています。かの著名な風刺漫画家のラルフ・ステッドマンにポスターを描かせています。なかなか面白いポスターです。

タブラス・ヒル: 上に紹介した、シャトー・ボーカステルのオーナーであるペラン一族がパソ・ロブレで作ったワイナリーです。例によってヌフ・ド・パプの13種類のブドウを80年代より栽培しているそうです。シラーのみのワインはまだありませんが、タブラス・クリークというシラー・ブレンドを生産しています。プライアルは、「フルボディのシラーがもうすぐ販売されるでしょう。そしてこれは最も賞賛を受けるワインとなるといっても言い過ぎではないだろう」と言っています。

キュペ、オハイ: 「やまや」やデパートに並んでいるのをみたことがあります。どちらもサンタ・バーバラあたりのワイナリー。プライアルは気に入っているそうです。私は「このあたりの」ワインとしては気に入っています。ですが南仏やオーストラリアのワインのようにずっしりしたワインではなく、果実実豊かなミドル・ボディのワインです。

フォリー・ア・ドゥー: ナパのワイナリーです。シエラ・フットヒル地区アマドー産のシラーを使用していて、プライアル曰くは「ビッグ・ボディ」だそうです。「やまや」でシャルドネやカベルネが並んでいたのは見たことがありますがシラーは記憶にありません。

ゲイザー・ピーク: 日本でもよくしられているワイナリーです。1993年にカリフォルニアに行った時には、シラーを売っているのはここぐらいでした。当時はローヌファンだったので、喜んで買いました。当時はシラーと呼んでいましたが、今はペンフォールズが50%を出資しており、その関係だと思いますが「シラーズ」と呼んでいるそうです。

エドモンズ・セイント・ジョン: アラメーダ・カウンティのワイナリーですが、プライアルが良いといってるのはソノマのダレル畑だと思います。ワイン・スペクテータのジェームズ・ローブもこのワインはカリフォルニアのシラーではベストと評価しています。

アルバン・ヴィニャード: サン・ルイ・オビスポのワイナリー。昨年は一般にはオープンしていませんでした。

スティーリ: レイク・カウンティのワイナリー。シラーは、「シューティング・スター」というブランド名で出しています。

字を大きくして欲しいとの声がありましたので、そうしました。

最近のアメリカでのホット・トピック (updated 2/6/00)

大統領選が近いせいもあるかもしれませんが、州をまたぐダイレクトシッピング(DS=直接搬送)の問題が取りざたされています。DSを禁止しろとか、禁止するなという議論になっています。一見ワインとは全く関係なさそうですが、アメリカの長期にわたる好景気のために、ワインが生み出した問題です。

景気が良くなった → ワンランク上の生活が出来るようになった → 美味いものを食べたい・飲みたい → ワインという飲み物を知った → 近くの酒屋には大したワインはない → インターネットでワインを買う → 地元の酒屋離れ → 地元の酒屋が儲からない → 消費税を州内で払わない → 州の税収に影響が出る → 政治問題となっているのです。

アメリカには、カリフォルニアという巨大なワイン生産州があるわけですが、「アメリカ人はみなアメリカのワインが好きである」と考えるのは、ワイン好きの我々だけが考えることで、実はアメリカ人という人種は、基本的にピールとウイスキーが好きな連中です。ワインを飲み始めたのは、この好景気に入ってからです。昨年カレラ・ワイナリーのジョシュ・ジェンセンに会った際にも、「アメリカのとくに若い連中はワインは見向きもしないんだが、日本では若い人がワインを飲んでいてすばらしい」と話していました。

それで何が起こっているかというと、、、これまで全米50ある州のうち、ニューヨーク州(NY)を含む30州が他州からのDSを禁止しています。中でもフロリダ、ノース・カロライナなどの7つの州では、送った側に対して逮捕状が出されるというものです。しかし、DSを禁止するという根拠は、時代遅れの、しかもこともあろうか禁酒法時代の法律に基づいているといわれます。自由の国アメリカですが、やはり酒に関してはアメリカにはうまくハンドルできない国なのでしょうか?

そこでついに2月3日に、NYで「禁止は憲法違反だ」という訴訟がおこりました。これまでNYは州外からのDSを禁止していましたが、NY内(全米第2位のワイン生産州です、ご存知でしたか?)でのDSはOKです。さらに州外のワイン生産者がNYで広告を直接うつのは禁止されています。

当然のことながら、州と卸売業者、そしてワイナリー協会と消費者という二つのグループに分かれるわけですが、ネット取り引きでダメージを受けている卸業者は「わたくしどもは、未成年者にアルコール飲料が簡単に手に入る状況を憂慮しているのです」ともっともらしいことを言っていますが、NYの実態とはそぐわないということは言うまでもありません。そして、ワイナリーの方は「卸業者は小規模ワイナリーのワインは扱おうとしないし、利幅が大きすぎる(つまり値引き要請がきついということ?)」と言っています。

さてどうなることでしょうか。

全豪州ワイン・センター (updated 1/31/00)

ワインステート誌によると、今年中にオーストラリアのナショナル・ワイン・センターが完成する予定だそうです。場所はアデレイドの植物園の中に作られ、日本円にして総額約30億円のプロジェクトだそうです。単にワインの歴史やワイン産地の紹介というミュージアム形式ではなく、教育型、参加型のワイン・センターとなるべく5年以上の歳月をかけて準備されています。6ヘクタールの畑を持ち、ここに様々なブドウ品種が植えられます。センターではワインは造らず、あくまで品種の違いやトレリス・システム、剪定方法、ドリッピングシステムなどを理解するために展示されるのです。フィロキセラ対策も万全で、畑に出る時にはフット・バスで足を消毒してからということになります。

最新のテクノロジーを導入し、ワインメーカーとの対話(具体的にどういうものなのか不明)やワイン産地に旅行したりすることができます(たぶん、ビデオが上映されるのでしょう)。自分のテースティング能力を試すゲームや、自分で即席ワインを造ってそれに対してコメントをもらうようなゲームも用意されるようです。なかなか面白いと思いませんか?

アデレイドは、地図で見ると南の真ん中あたりにある窪んだ湾に面した港町です。港町というと小さい様に思うかも知れませんが、サウス・オーストラリア州の州都です。この近くにあるバロッサバレーがオーストラリア最大のワイン産地であり、ペンフォールド、ウルフ・ブラス、ピーター・リーマンなど大手のワイン会社の本拠地でもあるのです。(97年にバロッサにワイナリーツアーに行ってきましたので詳しくはそちらにもアクセスしてください。)

アデレイドは食とワインの町として知られており、Food&Wine Festivalなるものが定期的に開催されるのですが、日本からの観光ではもっぱらカンガルー島への足場的な存在です。ビジネスなどでアデレイドに行かれる方は是非、ワインセンターに寄って来ていただき、どうか感想をお聞かせください。

ワインと健康 (updated 1/23/00)

「少量のアルコールの摂取は、心臓発作、脳卒中、心筋梗塞の発生のリスクを減らす」と言われ出してから久しいですが、「少量」というのはどれぐらいか知ってますか? 「あるある大辞典」で何回も復習したし、いろいろな本に紹介されています。その目安は、ワインにして200mlです。

皆さんを非常にがっかりさせるるレポートが登場しました。昨年1999年11月18日付けのEngland Journal of Medicineの中で、飲酒する方が20%も上記の疾病の発生を抑えられるとして結論づけた、そのアルコールの摂取量は、何と、「一週間にワンドリンク」なのです。ワンドリンクというのはどれぐらいの量かは定かではありません。、、、まあ、、、これを読んでいるような人には、健康をキープするためにワインを飲むのは土台無理な話です。しかしちょっと残念でした。

 

ムエックスの倉庫で火事 (updated 1/23/00)

ムエックスと言えば、シャトー・ペトリュスが真っ先に頭の中に浮かぶわけですが、他にもシャトー・トロタノワ、セルタン・ジロー、ラ・フルール・ペトリュスを(そしてナパにあるドミナスも)所有しています。その蔵で火事があったといえば騒ぐのは隣近所だけではない!

火事があったのは、19日の夜で損失額は200万ドルあまり。幸いにもペトリュス他の偉大なワインは無事だったのですが、AOCボルトーと比較的安いシャトーものが消失してしまいました。ですが火事のあったセラーの側に保管されていたワインも熱による影響をうけていないかどうかチェックするためにサンプリングを行なう予定だそうです。

火事の原因は、搬送用のトラックの電気トラブルと見られています。

 

 

南アの話(続編) (updated 1/23/00)

追いかけなければならなくなってしまった話の一つですですが、先にお伝えした南アとECとの自由貿易協定は発効したそうです(→前回の記事はここをクリック)。包括的協定を部分的条件でつぶすわけにはいけないということらしいです。しかしどうも、グラッパだけではなくてギリシャ産の「オウゾ」の名称も問題になっていたらしいです。17億ドルとお伝えした予想される貿易の規模は1700億ドルのようです。お詫びして訂正します。

 

マット・クレイマーのソムリエ批判への反響 (updated 1/23/00)

これも追いかけなければならなくなってしまった話の一つですです。以前にマット・クレイマーがレストランに出かけた時に、「ソムリエがグラスにワインを注がないで、名刺を持ってきた。何たる事か、そしてアメリカのソムリエは全般的におごっている」としたコラムの翻訳を載せました(→前回の記事はここをクリック)。これはスペクテータに載ったものでしたが、今度はこれに対して読者からの反響が来ました。当然これもペクテータからです。

まずは、「一人のソムリエをやり玉にあげていて、個人非難している。これはフェアではない。また批評家の役割は業界の教育だと思うが、屈辱を与えるということは教育にはよろしくない」としたもの。次に「ソムリエの仕事は目立たないが、どんなワインを選んでも客に心地よく食事をしてもらうためにいるものだ。自分はソムリエとして不自然には思った事はなかったが、あのような批評がでるということは、我々はもっと自分の仕事をよく考えなければならない」そして3番目が醸造家で、「ワインビジネスとは人の繋がりで出来上がっているビジネスだ。ワインメーカー、醸造家、ライター、すべて自己主張の塊だ。それで一番先っぽにいるソムリエが認識され始めたということだろうか。しかし有名人がきたから興味を示すというのはソムリエでなくともある。それを責めるのはフェアではない。」4番目のコメントが「影響力が大きい批評家が、影響力の大きい雑誌を使って指南するには言葉づかいが不適当である」そして最後のコメントが「確かにおおぎょうに振る舞うスターソムリエはいる。しかし多分そのような場合は、不心得ものというか、事の繊細さに鈍感というか、あまりに情熱的というか、そういう人物がソムリエなのだ。しかしそのソムリエに関して言えば、有名人がきたのでどぎまぎしたのだろう。考えさせるコラムではあったと思う」といったところです。

結構、反響は大きかったようです。クレイマーはえらい評論家ですが、それに対して、NOと言える土壌が確実にあるのは、素晴らしいと思います。

結局はソムリエの質を決めるのは何でしょうか。多分これは我々消費者が決めなければならないことだと思います。ソムリエの皆さんにどう振る舞って欲しいのかは、消費者が決めるべき事ではないでしょうか。私の場合、クレイマーは消費者として「サービス第一が、ソムリエの本業ではないか」としてあのコラムの中に主張したと思うわけです。(多分に有名すぎた消費者であったわけですが)

「ワインがわからなければソムリエに聞け」とよくいわれます。「そのレストランのメニューをよく知っている。そしてそれにマリアージュできるワインを置いているから」というのが理由です。それは知識として豊富だからということに他なりません。しかし、逆に知識なら我々消費者でもある程度は身につけることは出来るものです。従って、やはり優れたサービスを優れたソムリエの本来の仕事としていただきたいというのが、私の感想です。

 

コルクの話(1)(2)(3) (updated 1/17/00)

1992年、カリフォルニア州ソノマに本拠をかまえるセント・フランシス・ワイナリー(特にジンファンデルは有名)は次のようなコルクを32000本のボトルにランダムに使用しました。コルクにはフリーダイアルの番号が印刷されていて、そのコルクに当たった人(で多分ワインにコルク臭がついていた場合だと思います)は、ワイナリーに電話してくださいと書かれていました。現在はセント・フランシスがプラスチック・コルクを使用している事実は既に広く知られています。なぜセントフランシスがプラスチック・コルクを使用し始めたかご存知ですか?

経営者の一人であるジョセフ・マーチンが東海岸に出かけた時に一度の旅行で3本ものコーキーなワイン(コルク臭がついていたワイン)に出会って、「コルクは信用できん」ということになったのです。

皆さんはコルクで失敗したことはありませんか?例えば、こんなのはどうですか。ソムリエかウェイターがワインを持ってきてテイスティングにとグラスに注ぐ。そして「ちょっと変かな?コーキーかな?」と思うが自信がない。そして自分自身に言い聞かせる「これぐらいならまあ時間が経てば飛んでいくだろう」そして「OK」とソムリエに言ってしまう。しばらくそのワインを飲んでいるがどうしても「やっぱり変だ」という思いがなくならない。「あの時ダメですと言っておけば良かった」と思う。そして周りには、あなたがワイン通だと知っている為にあなたがOKしたワインは間違いのないワインとおもっている無垢な仲間がいる、、、

しかしあのジェフ・モーガン(ワインスペクテーターのコメンテーター)でさえも同じ事をやったことがあるのです!飛んでいくだろうとおもっても飛んでいかない!つまり我々素人にはこんな話はよくあることなのです。

私の場合は、忘れもしない出来事があります。1998年の4月でした。大阪帝国ホテルのバーで、クロ・デュ・バルのカベルネをボトルでオーダーして、テイスティングさせてくれた時に、「これにはコルク臭が入ってますので取り替えてください」といいました。ウェイターはソムリエらしきなりをした人物のところへそのグラスを持っていって確かめてもらっていたようでした。その人物が私のところへやってきたので、私は「コルク臭が入っていると思いますが」といいました。すると相手は「そのような事はないと思います。お取り替えはちょっと、、、」との返事。周りもありましたのでその場で喧嘩をするわけにもいかず、そのボトルで我慢することにしました。すると結果は上と同じで、後で後悔することになりました。それ以来ホテル自体は出張で良く使うものの、あのバーだけは足が遠のいています。

ジェフ・モーガンの話には実は続きがあります。アメリカだから出来たと思いますが、彼の場合は、一緒に食事をしていた奥さんと相談して(この辺がなんか普通の人という感じでいいです)その後ソムリエを呼んでボトルを取り替えさせたのです。アメリカだからといいましたのは、私自身何回かある中で記憶しているのはニューオーリンズの有名なレストランで同じワインを2本まで取り替えてもらったことがあるからです。その時は3本目はきらびやかな香りと味わいでした。さすがに2本もおかしいと思いましたので、「当然だ」というよりも、間違いではなかったという事実にホッとしました。これ以外にもボトルの交換を申し出たことは何回もありますが、アメリカでは拒絶された事は一度もありません。しかし、日本では「おかしい」といって交換してくれたのは二度きりです。「交換してください」と言ったことは、少なくとも5回はあるんですよ。どうしてですかね?こういうところで日本のワイン産業は、業者よりだといつも確認できてしまいます、、、、、、とは言ったものの、この話はまたいずれということにして、そもそもコルクが悪くなっていなければ、このような屈辱を味わう必要がないのは事実ですよね。

今回はどうしてコルクが悪さをするのかという話、そして最近のその悪しきコルクへの対処の考え方、方法などを綴ってみたいと思います。

ちょっとだけ話を戻して、コーキーなワインはどこで見つかるかと言いますと、はっきり言って、どこでも、カーブ・タイユヴァンでも、その辺の蕎麦屋(ワインがおいてあることが前提です)でも、ワイナリーでさえも見つかります。ジェームズ・ローブ(カリフォルニアワインの権威)が最近のワインスペクテータに書いていたのは、ロマネ・コンティでのテイスティングで(何本供されたのかは知りませんが、多分若いものでしょう)3本のボトルがコーキーだったそうです。そしてオーベール・ド・ヴィレーヌ(DRCのオーナー)の自宅でマット・クレイマー(ブルゴーニュワインの権威)もコーキーワインを経験したそうです。自分のボトルでなくてほっとしたと書いています。恐いですね、かのDRCですよ。しかもスペクテーター誌の饒舌コメンテーター二人がDRCで経験をしているんです(いつもいじめられているからわざとかな?!いやいやそんなはずは)。しかし何十万もお金を払った後でそのワインがコーキーだったら、、、考えただけでもぞっとします。この一年間では自分のセラーにありました。1991年のヴォギュエのボンヌ・マールがコーキーでした。2本目は大丈夫でしたが、1万円近くしたワインだったのでショックでした。DRCと我が家では月とスッポン、天国と地獄ほどのさがありますが、どこにでもありうるという意味ではこれ以上の例はないでしょう。少なくともボトルになってから、ワインはコーキーになると思いますが、どこかに原因があるわけですよね。

コルク汚染の原因(その1)

コルクというのは、中がスポンジ状になっているため、柔軟性のある素晴らしいストッパーとなります。しかしそれが故にカビだのホコリだのバクテリアだのを引き付けてしまってそれがワインに変な匂いや味を与えてしまうということになるのです。そのため「消毒」ということをやります。

最もよくしられた汚染物質は2−4−6トリクロロアニソル(TCA)と呼ばれるものですが、これはもともとコルクに付着しているカビと漂白につかった塩素によって引き起こされる物質です。この物質こそがいろいろのカビっぽい香りを発散させ、あの刺激するような不快な味を生み出すものです。10−5ppmの量と言えばごく微量ですが(ちなみにワインには、酸化防止剤といわれる数十ppmの二酸化イオウは普通に入っています)、たったこれだけの量のTCAでワインはコーキーになってしまうのです。

全世界の80%のコルクはポルトガルで生産されていますが、彼らがこの状況に目をつぶっているわけにはいきません。例えば、カビの発生を抑えるために衛生面、品質面のコントロールを強化していますし、塩素を過酸化水素に置き換えたりしてきていて、カビと塩素の両方からTCAの発生を抑えてきています。あるいは煮沸消毒、高温殺菌等を行ったりもします。その結果として、80年代半ば以降はコーキーなワインは随分減ったといわれてきています。コルクに汚染されたワインは、コルク生産者協会によれば、かつては8%、そして今は3%にまで落ちてきたといわれました。

しかし3%と言っても100本に3本は当たるということです。つまり、冒頭のジョセフ・マーチンは、押し並べて言えばそれに全部当たってしまった!?それは頭に来るはずです。実際にはまだまだ10%はあるという話もありますが、これはやはりコルクメーカーの違いを考えに入れなければ正確な数字は出ないでしょうし、コルク会社の段階とワイン生産者の段階とでは数字のつかみかたも異なるはずです。連続で2本大当たりを出した私にとっても、個人的にはもっと多そうな印象があります。

いずれの数字にしても、ワインメーカーはコルクの問題にはずっと頭を悩ましています。コルクを輸入する時はどうするか?船で運ぶと温度が上がりますからカビなどは繁殖しやすいでしょう。しかしあるカリフォルニアのワインメーカーは空輸した2万個のコルクを全部生産者に引き取らせたともいいます。高品質のコルクは1ドル/個ですので、2万ドルをどぶに棄てたことになります。ある輸入したロットの中にたった一個でも汚染されたコルクが入っている場合は、そのロットを全部棄ててしまいたい気持ちにもなるわけです。ボトリングのラインの中で他のコルクまで汚染させてしまうかもしれません。

従って、やはり生産者を出る時の状況がどうなっているのかが重要な問題なのでしょう。しかし、工業製品ならいざ知らず、万に一つ、あるいは百万に一つ、あるいは「欠陥ゼロ」もありえるでしょうが、所詮コルクは農産物なのです。もともと生き物であって、出来る限りその有機特性を生かして、出来る限り無機物質として使おうという事をやっているわけです。汚染コルクをゼロにするというのを「目指す」のは可能でも、実際にゼロにするのは至難の業でしょう。先に述べました様な手法で処理をしても、表面上は殺菌できても、コルクには穴が空いていますから中までは洗浄出来ないのです。もともと中が汚染されていればどうしようもないですね。

今年1999年9月の話ですが、ポルトガル、ドイツ、アメリカのワイン関係者そしてECが1.5億円の研究費をかけたが結果が発表されました。これはマイクロウェーブによっていかほどのTCA他の汚染物質が取り除けるかという研究でしたが、官能テストと分析テストの結果、両方でマイクロウェーブ処理後の11000本から実用上全く問題にならない程のレベルまで汚染物質を落とせたといいます。さらに2億円かけて1999年12月に(実際に発表されたかどうかは未確認ですが)DELFIN(Direct Environmental Load Focused Inactivation)という名で試作機が発表されるようですが、これを利用すれば、マイクロウェーブによってコルク内部の汚染物質が水分と共に表面に押し出され、何とコルクの中も処理できるそうです。コルクの細胞には傷を付けないそうで、当然あの柔軟性は保ったままということでしょう。

この結果を試した25のワイナリーは、非常にポジティブな見方をするものから懐疑的な見方をするものまで分かれたそうです。しかしポジティブな皆さんでも「今はよい」という条件付きでの見方だそうです。実際どれぐらいのレベルまで汚染物質が取り除けるのかはまた解明されていませんし、ワインは長期にわたって熟成させるものですからね。しかし願わくばこれがコルク問題解決への大きな一歩であったらいいとおもいます。

コルク汚染の原因(その2)

ここまではコルク自身に問題があるのを何とかしようという話でしたが、実はセラーにも問題があります。汚染物質がTCA系であるという事実には変わりがありませんが、セラーの中とか、ボトリングした後でも生成されるという話があります。要注意です。昨今古くなってきたセラーを改造しようという動きがかなり出てきています。その改造に木材を使うところに問題があるのです。というのは木材の殺菌処理のために、ポリクロロフェノールを使用します(全部塩素が悪い!?)。このポリクロロフェノールが、セラー内の湿度のために先のTCAに似た物質である4価クロロアニソルとか5価クロロアニソルに変化し、セラー内に飛散することで、既に瓶の中にあるコルクに対して同様の効果をもたらすのだそうです。空調が設置されているセラーなどは更に状況を悪化させるとも言います。これは CIVB(Conseil Interprofessionnel du Vin de Bordeaux)が行った調査でも明らかとなりました。コーキーなワインの内25%はポリクロロフェノールまで溯ることができたといいます。ただし、1998年にランダムにテストした1300本のワインの内の44本がコーキーで、その中での11本ということです。この数字を見る限りは、コーキーワインは全体の3.5%程度ということになります。そのうち木材から来る汚染は0.8%ぐらいということで一見大した事はなさそうに思えますが、年間のボルドーの生産量は8億7千万本で、この0.8%と言いますとなんと年間7百万本のボトルが木材のために汚染されている!さらに後日談があって、CIVBの会長は後に取り消したのですが、「レクスプレス」紙に10%程度のコルク汚染があったと述べています。木材による汚染ではなくて、コルク汚染の全体だと思いますが、そうするとケースに一つぐらいはあってもおかしくはないという計算になりませんか。恐るべき汚染の状況!

もっともひどかったのがサンテミリオンのシャトー・カノンで、92年以来味が悪くなり95年までに生産量を随分と減らし、ついには96年にローザン・セグラのオーナーであるヴェルトハイマー家に売り払いました。両方のワインメーカーであるジョン・コラサはこの事実を公表してカノンの改造に取り組んでいます。シャトー・ヌフ・ドゥ・パプのグラン・ヴォンドゥはセラーを新しくしたために、そのセラーで保存したワインを全部破棄処分にしたことも発表しました。

この木材につかう殺菌剤が悪さをするのではないかということは、フランスでは15年ほど以前より疑問をもたれてきた事実があって、特に由緒あるようなワイナリーは一端は木材を使おうとしたものの、それを取りやめるということも行ってきたようです。汚染の事実を隠すために黙ってそれをやったという穿った見方もあります。しかし古いワイナリーはともかくとして、むしろ新興のワイナリーは元々のセラーの設置に最近の処理済の木材を使用しているので危険ということがいえます。新たなフランスでの報告では、コルクではなくて樽にも影響を与えてコーキーさに貢献するという話さえもあります。

アメリカではどうかといいますと、オーパス・ワンの偉大なる「要塞」には木材を使っています。カレラ・ワイナリーのジェンセンが誇るヴィンテージ・セラーは木材を使っています。そうそう簡単に木材が駄目だから造り変えるということは出来ません。専門家の意見はどうだ?といいますと、いつものUC Davisの先生が登場するわけですが、UC Davisの先生は「まあ可能性としてはあるだろうが、事実としてはつかんではいない。90%はコルク自体の問題」という態度のようです。そう聞きますと過去の彼等の悪行を思い出してしまいます。フィロキセラに対抗するためにAxR-1という台木を推奨し、カリフォルニア全土に広めたUC Davis でしたが、彼等が推奨していた時にはすでにフランスでは「AxR-1はダメ」と言われていた事実がありました。結果はどうだったか?カリフォルニア全土がフィロキセラにやられる羽目になってしまいました。

代替コルクだ!

「もう天然コルクは当てにならん」ということになるのかどうか、ここで道が二つに分かれるのです。

当然の事ながら、コルクの良さに対してもまだ解明されていない部分も多くあります。コルクが僅かずつ外の空気を取り入れているために、ベストな状況で徐々にワインが熟成する。というのが主張であろうとおもいます。これが事実であるとすれば、確かにコルクは非常に重要な役割を果たしているのです。プレミアムワインに使われているコルクをそうそう簡単にプラスチックに置き換えるわけには行きません。しかしそれが事実でなければいいワインには品質の良いコルクがしてあるべき、とおもうのはただの宗教です。消費者の多くはこちらの方につくでしょうが、ボトルの中でのよい側面でのワイン熟成は還元反応であるというのが最近の通説になっているというのも事実ですよね。解明できるのかどうか。

しかしコルク汚染は全体として3%以下であればそれで放っておくか?そうもいかないでしょう。安物のワインならいざ知らず、DRCはゼロにして欲しいです!彼等もゼロにしたいと思っているはずです。 ワイナリーの信頼に関わる。

ということで仕方なく?プラスチック・コルクが最近は注目を集め出しているのです。この動きは当然フランスでは起きません。しかしフリウリでは起きている。いずれにしてもアメリカの動きを見てみますと、、、

まだ有名なワイナリーではセント・フランシス(95から)ぐらいしか、実際にプラスチック・コルクを商業用プレミアムワインに使用している例は知られていませんが、既に使用しているワイナリはあります。サター・ホーム、ボニー・ドゥーン(97から)、ヤムヒル(93から)などがあります。彼等の観察では一ケースに一本はコーキーワインだったということで、約10%はコーキーであると判断されたわけです。プラスチック・コルクの使用に踏み切りました。そして結果はコーキーワインはゼロということです。熟成は確かに遅いそうです。「瓶内熟成は還元反応」という通説がここに来て疑問を持たれていることになります。

その他にも、実はRobert Mondavi、Beringer、Kendall-Jackson、Clos du Bois、 Sebastianiといったワイナリーは、1996年にはNeocork Technologyという調査会社を設立してプラスチック・コルクの研究をしているのです。1998年には既にポリエチレンを主材料にしたネオコルクは製品化の段階にあります。ただ具体的にはこれらのワイナリーで実際にいつから使用するかは決められていませんが、セバスチアーニは1999年より使用するかも知れないとしていました。さてどうなるでしょう。

で、プラスチック・コルクを含む代替ストッパーについてはジャーナリストはどう見ているかということが気になります。パーカーは多分興味のない話題だとおもいますが、彼がどう考えているかご存知の方がいらっしゃれば教えてください。既に上に紹介していますジェームズ・ローブ、マット・クレイマーなどは完全にタカ派の代替主義者です。ローブは、セント・フランシスがやっていることを褒め称えながらも、別にスクリューキャップでもいいんじゃなかとも言っています。クレイマーは、今年のナパのフェスティバルで、ある著名ワイナリーのオーナーに向かって「ストッパーを消費者に選ばせるようにしてくれないか。5%よけいに払うから」と言ったことがあります。そして読者にむかって「皆でそうなるようにしましょう」などと声高に呼びかけています。あのクレイマーがここまでやるか?という感じがします。というのはいますのは、1997年にイタリア、フリウリの、マリオ・ショペットワイナリーで、かつて彼自信素晴らしいと賞賛したワインのボトルにコルクでなく、スクリュー・キャップが乗っかっている(まだテスト段階)のをみて驚愕し、抜栓という緊張する神聖な儀式が葬られた事実とコーキーさを取り除くことの重要性との間での苦悩のコメントを載せていました。それが1999年になると大変な変わりようです。

あなたはコルクファン?

と聞けば「当たり前だ」「馬鹿コケ」「田崎バージョンのラギオールのナイフをもっているんだぞ」あるいは謙虚に「プレミアムワインにはコルクを使って欲しいなあ」と思うでしょう?しかしコルクを使うということに関してはもう一つ考えなければならないことがあるのです。

プレミアムワインはリリースしてすぐ飲むということはやらないと思いますが、いかがでしょうか。何年寝かせますか?1990年のシャトー・ラトゥールは25年寝かせます?当然そう思っているでしょう。しかしワインを寝かせますと、コルクも年を取ってくるわけです。コルクというのは年を取ると「リコルク」が必要なのです。たしか20年ぐらいでやるはずです。でなければよぼよぼのぶてぶてになってしまい、ソムリエナイフを際し込んだとたんに、あるいは引き抜く時に「ボロッ」といってしまう。飲む時にこうなるだけなら救いはありますが、コルクが年を取りますと細胞組織が壊れてくるわけです。その影響たるや、、、これも考えただけでブルッときます。自分のオールド・ヴィンテージは何年ものか?リコルクはしてあるか?あと何年寝かすつもりか?といった事が心配になってきます。1945年ものはリコルクが2回ぐらい必要なんです。1961年ものはもう数年で2度目のリコルクが必要になる。1970年ものはちゃんとリコルクしてありますか?ということが心配になりませんか?つまりリコルク屋さんが身近にない限りビッグ・ヴィンテージワインなどリリースでとか先物で買うなどということにはならないと思います。よしんぱリコルクが順調に出来ても同じヴィンテージのワインがトップ・アップされるかどうかは判りません。そうでない方が多いはずです。リコルクを変なルートでやろうとすると、戻ってくるワインはニセモノという事も大いにあるというのも事実です(「ニセモノ・ワイン」については機会を改めて、どのようなものがあるかを紹介したいと思います)。

同じ質問をします。あなたはコルクファンですか?

最後に、コーキーワインに出会ってしまって、そのレストランのソムリエでもオーナーでもそのコーキーさを認めない場合、その時は「そのワインはあなたがたにプレゼントします。私どもは別のボトルをいただきますので」と是非、言ってみてください。お金と自信がある時に限ってですが。

南アの「グラッパ」 (updated 2000/1/9)

「シャンパン」、「バーガンディ」、「シャブリ」、「シェリー」、「ポート」という名前に共通することといえば、何を思い出されるでしょうか?

人々に広く良くしられている名前を、原産地でない場所で生産されたワインに対してつける。あるいはかつて付けられたことがある名前です。誤解を招きやすい命名だという事で、ある特定のワインとか製法とか地域の名前を指す(と想定される)名称については、今や国際的に統制されるようになってきているのはご存知の通りです。例えばいろいろの国で造られるスパークリングワインはかつてはシャンパンと呼んだことがありましたが、今はシャンパンと呼んではいけない事になりました。しかし、逆に味が似ているのなら名前も同じでもいいのではないかとも思う人は大勢いるわけで、こういう人たちに対するマーケティングパワーを落とさないために、シャンパンと同じ造り方をしているスパークリングワインに対しては「シャンパン・メソド」という名前をつけていいことになっています。よく考えられています。

ポルトガルのポートを一度ご馳走になって美味しいと思った人が、「ポートワインは美味いぞ、見つけたら買おう」と思ったとします。しかし「赤玉ポートワイン」を買って飲んでも全然違うでしょう。シャンパンと同じように統制するべきだと思います。しかし、ポートとかシェリーの場合は、統制が非常に難しい事情もあります。もともとは地名に由来するという意味においてはシャンパンと同じですが、ポートとかシェリーにはシャンパンと異なっていくつもの製法があるわけで、「ポート・メソド」と書くだけでは、やはりピンからキリまでのワインを売っていいということになります。では「コルヘイタ・メソド」と書くのと一般の消費者には無意味です。難しいですね、、、

まあ、それはともかくとして、歴史上「シェリー」もどき、「ポート」もどきを生産してきた南アは、スペイン、ポルトガルとの間では、いずれシェリー、ポートという言葉を使用しないようにするという約束をしていますが、今度はイタリアとの間で「グラッパ」という言葉についてもめています。(もどきという言葉は馬鹿にしているわけではありませんが、あくまで原産地に敬意を表してこのように使っています)

グラッパというのは、ブドウを搾った後の滓を利用して造るスピリッツで、色がついておらず40%程度のアルコール度数があります。イタリアではポピュラーな飲み物です。イタリアでの生産量は750mlボトルで約4000万本です。これに対して南アで造るグラッパもどきの生産量は約3万本といわれます。1990年代の前半から生産が開始されました。輸出もしていません。それにも関わらず、イタリアが噛み付いたというわけです。

これが国外に出ない限りはなんの問題もなかったかも知れませんが、もしイタリアにグラッパと名のついたグラッパもどきが入ってくることになれば、あるいはグラッパの市場をグラッパもどきが荒らすことになれば、これは大きな問題です。といいますのが、実は南アとECとの間で、2000年1月8日から自由貿易条約が発効するのです。これ自体南アにとってはエポック・メーキングな出来事で、南アの前大統領のネルソン・マンデラが、南アの国際経済への進出するための目玉として、非常に多くの時間をこの条約の締結の準備のために割いてきました。南アにとってはそれほど大きな意味をもつ条約、そしてEC加盟国の全部が合意しなければ条約が発効しないという条件を逆手にとって、イタリアは自国の利益、伝統、名前を守るという動きにでたのです。「グラッパ」は製法もイタリア独特であり、語源上もイタリア語であるとして、南アがこの言葉をグラッパもどきに使う限りは、条約発効の批准をしないと言い出したのです。なんとこの「グラッパ」問題が、EC全体と南アの自由貿易条約発効のための唯一の障害となっているというわけです。(この情報を載せるに当たって、予定通り1月8日に条約が発効したかどうかの確認はまだしていません)

政治経済と酒というのは歴史上にも深い関係があったことは良く知られていますが、これは最も最近の事例の一つでしょう。17億ドルの新たな巨大市場を生み出すだろうといわれる条約の発効が、たかだか数十万ドル程度の一つの商品の貿易によって揺れ動いているという状況はなんともはや。数字で支配されているはずの現代社会において、バッカスはいまだに狂気(凶器)を創り出す神なのです。